抄録
20世紀後半の新聞文章では,具体名詞のほかに,抽象的な意味を持つ外来語も増加し,基本語化している.その多くは,和語・漢語の同義語・類義語があるにもかかわらず基本語化しており,その増加および基本語化の理由は言語内的に説明しなければならない.先に,金(2006a)は,抽象的な外来語の多くが(和語・漢語の)類義語の上位語となることによって基本語化していることを明らかにし,その背景に20世紀後半の新聞文章の概略化をあげ,「概略的な文体が概略的な上位語を必要とした」という語彙論的な説明を行った.本稿では,これに加えて,上位語が「先行叙述の指示・再表現(名詞化)と後続文脈への展開」という文章構成機能をもつ点に注目し,自作の通時的新聞コーパスを用いた調査によって,抽象名詞の外来語が,指示語句と同格連体名詞という二つの形式(用法)によって,再表現を核とする文章構成機能を獲得・発展させ,その使用量を増やしている事実を発見・提示する.これにより,抽象的な外来語の基本語化には,語彙論的な側面だけでなく,文章構成機能という文章論的な側面も関係するという見通しの妥当性を確認することができる.