抄録
本稿では,質問票調査の海外での動向を,Dollinger(2015)に依拠しつつまとめた.質問票調査は19世紀後半のヨーロッパにおける方言学の勃興とともに,面接法と並んで使われ始めた調査法である.アメリカに伝播後,面接法はその後主要な方言調査で採用された一方,質問票調査法は副次的な位置づけをされることになった.自然談話を重視する変異理論の興隆とともに,1970年代以降この傾向は一層強くなった.ヨーロッパやカナダでは調査票調査は有力な調査法として使われ続け,1990年代以降のカナダにおける一連の社会方言学的研究によって,質問票調査は再評価されるに至った.海外の質問票調査が提起する問題として,質問票調査で可能な言語学的レベルの問題,成年後採用(Boberg 2004),地域性指標(RI)(Chambers and Heisler 1999)についても解説し論じた.