松江市立病院医学雑誌
Online ISSN : 2434-8368
Print ISSN : 1343-0866
遺伝性出血性末梢血管拡張症
公受 伸之
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ジャーナル オープンアクセス

2019 年 22 巻 1 号 p. 1-9

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抄録
遺伝性出血性末梢血管拡張症:Hereditary hemorrhagic telangiectasia(HHT)は,常染色体優性遺伝形式をとる全身性血管疾患で,難治性鼻出血,皮膚粘膜血管拡張病変,内臓血管奇形(脳・脊髄, 肺,肝臓,消化管)を特徴とする.発生頻度は5,000 ~ 8,000 人に1 人の割合で,島根県には約130 名,松江市に約40 名の患者が存在すると推定されるが,HHT と診断されていないために重篤 な合併症を併発しても適切な治療が受けられていない患者が少なくないと推測される.診断は決して難しくなく,Curacao 基準(繰り返す鼻出血,末梢血管拡張病変,内臓血管奇形,家族歴の4 項 目中,3 項目以上で診断,2 項目で疑い)で臨床診断が可能である.鼻・消化管粘膜病変による重症出血・貧血と肺・脳動静脈奇形による合併症は予後・QOL を大きく悪化させ,また肝臓血管奇形による心不全や肺高血圧症は難治性である.幼少時~小児期にpreemptive therapy として介入をすべき患者や安全な出産に導く特別な配慮を要するHHT 合併妊婦もいる.このようにHHT に関連する診療科は,小児科,皮膚科,耳鼻咽喉科,消化器内科・外科,脳神経内科・外科,呼吸器内科・外科,循環器内科,心臓血管外科,産婦人科,麻酔科,臨床遺伝科など多岐に及ぶが,多彩な表現型と低い認知度,専門医の不足が本疾患診療レベルの向上の妨げとなっている.今のところ根治的治療は確立していないが、それぞれの病変に対する治療は大きく進歩している.関連診療科の医師は,病変の診療のみに終始することなく,患者を正しく診断に導き,未発見の病変を適切に対処し,さらに世代を超えて医療の進歩を提供する役割がある.献身的な国際患者会Cure HHT の活動を背景に,北米欧州では近年基礎・臨床研究が飛躍的に進歩しており,我が国においても患者会や医師の研究会活動,国の支援が始まった.集学的診療体制の確立に向けて,この島根の地でも連携を深めたい.
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