抄録
近年,外国語教育学の分野でも,質的研究の裾野は広がりつつある。質的研究は,「研究」という看板を掲げているのだから科学であるはずだ。しかし,質的研究が持つ「科学性」について,著者は明確な考えを持っていない。また,「質的研究は科学である」と聞くと,何ともいえない違和感を感じていた。このままやり過ごすことはできたが,この違和感を放置しておくと,例えば将来,運良く(悪く?)教え子ができて,「質的研究をやりたい」などと言われたら,とても焦るだろう。こんなことから,質的研究については,いつかは自分の言葉で説明できるようにならなければ,という勝手な責務を感じていた。また,質的研究の発表を学会で見聞し,発表者とフロアとのやり取りが噛み合わず,拡散する議論に研究の成果が回収されてしまうことを,とても残念に思っていた。研究の向こう側に多大な時間と労力を提供してくれた参加者がいることを思うと心が痛んだ。
外国語教育メディア学会関西支部・メソドロジー研究部会(以下,メソ研)では,著者の勝手な焦燥感と,質的研究が置かれている状況を改善していくために,量的研究に加え,質的研究についても活発な議論を重ねてきた。その結果,科学的論理性,および原則と要件を踏まえることによって,「質的研究は科学である」と明言できる段階にまで議論を深めることができ,著者の焦燥感も解消された。
本章は,メソ研で重ねられてきた議論の成果物である。メソ研の成果物ではあるが,本章の内容に関する責任は,すべて著者自身にある。質的研究を専門としない者が,また,質的研究の論文を1つも書いたことがない者が,質的研究の科学性などと大きな看板を掲げても,失敗することは目に見えている。しかし,メソ研を踏まえた現時点での到達点を公開し,皆様からのご批判を頂戴しながら,今後の実りあるメソ研活動に役立てることができればと,勝手ながら願っている。