衛生動物
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ドクガ幼虫駆除に関する研究 (I) : 殺虫剤の航空撒布について
井上 義郷
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1960 年 11 巻 4 号 p. 193-201

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抄録

1955年, 名古屋市におけるドクガの異常発生地を現地調査した結果, その幼虫対策としては彼等の棲息地の各種の条件やドクガのbiotic potentialが小さい点などから, 殺虫剤の航空撒布が一つの有力な駆除手段と考えられるに至つた.しかし, 当時この試みに関する研究は乏しかつたが, 被害防止の上から現実の駆除が緊急問題であつたので, 名古屋市当局はこれが実施を決定した.そこで実際の駆除と同時に航空撒布の資料を得るために次のような実験を試みた.(1)まず, ドクガ幼虫に有効な殺虫剤を明らかにするための予備試験を実験室で行い, γ-BHC, DDT共に通常圃場で用いられる農薬撒布量で充分な効果の期待し得ることを知つた.そして更に天敵にたいする影響や薬剤費などの経済性の考慮を加え, 使用薬剤としては名古屋市当局はγ-BHC 3%粉剤を選択した.(2)ベル47G型ヘリコプタを使用して1955年および1956年の2回にわたつて航空撒布を実施し, その一部に実験区を設定して, 駆除効果と密接な関係のある粉剤の分散および落下量の測定を粉剤試験紙法で実施した.その結果, ドクが幼虫対策には10a当り薬剤3kgの撒布を目標として, 時速45〜48km, 高度2.5〜10mの範囲の飛行条件でかなり良好な粉剤の分散の得られることがわかつた.(3)実際に測定された程度の粉剤の落下量で, 果してドクガ幼虫に殺虫効果を期待し得るかどうかを野外試験ならびに実験室内のモデル試験で検討し, 前記の飛行ならびに撒布条件で, ほぼ満足すべき殺虫効果の得られることを知つた.(4)なお, 附随的に実験室で行つたチヤドクガ幼虫にたいする小実験の結果から, その殺虫剤感受性はドクガ幼虫と同等及至はそれよりやや高いように考えられた.

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© 1960 日本衛生動物学会
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