日本組織適合性学会誌
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総説
ペンギン類MHC MHC多型解析によるペンギン類6500万年の進化の足跡
津田 とみ猪子 英俊
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2008 年 14 巻 3 号 p. 345-357

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抄録

現存のペンギン類は, 9,000種にもおよぶ多種の鳥類のなかで, 陸上を移動するときの動作の特色ばかりでなく, 成鳥が空を飛ばないことや, ヒナは親の保護に完全に依存して成長する就巣性であることなど, の特色を有する. ペンギン類の棲息地は南半球に限られている. 約5,000万年前から現在に至るまで分岐と進化を重ね, 極寒の南極から, 赤道直下のガラパゴス諸島まで, 厳しい自然環境に適応しつつ進化してきたことが推測されている. 一方, 主要組織適合遺伝子複合体(Major Histocompatibility Complex;MHC)は脊椎動物の免疫応答において外来抗原を捕捉しT細胞に提示するという重要な役割を担い, 遺伝的多型性を獲得してきたことがよく知られている. ペンギン類は極域から熱帯域へと分布が広く, 外来抗原とのかかわりも他の動物種とは異なりその結果, 特徴的なMHC多型を持つであろうと私たちは予測した. MHC遺伝子の多型解析はヒト, マウスなどで近年急速に進み, 特にヒトでは疾患感受性との関連など応用範囲を広げている. しかし鳥類でのMHC解析は, ニワトリおよびウズラではMHCのB領域の全配列が決定されたが, 他の鳥での報告はまだ稀である. 私たちは, ペンギン類を含む海鳥類のMHC遺伝子多型解析がペンギン類の進化を系統的に検討するための有効な手段になることを報告し, 現在までにアデリーペンギン属の3種やフンボルトペンギン属の2種, 他の属についても, MHCクラスII第2〜第3エクソン領域のゲノム塩基配列の解析をすすめてきた. 本稿では, ペンギンMHCの全容を述べることは果たせないが, ペンギンMHC(SpLA)を興味ある, そして価値ある研究対象として紹介したい.

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© 2008 日本組織適合性学会
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