日本微生物資源学会誌
Online ISSN : 2759-2006
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液液共培養法による腸内細菌の分離と同定
久富 敦大熊 盛也坂本 光央
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2024 年 40 巻 1 号 p. 39-45

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抄録

腸内細菌はヒトの生理機能や多様な疾患に関係することから医薬品開発などさまざまな産業分野で注目されている.有用な機能をもつ可能性のある新たな生菌製剤の開発には難培養微生物や新菌種などの分離や培養,分類が必要不可欠である.本研究では便希釈液を生育支持菌として液液共培養する新たな培養法を実施した.本培養法では,支持菌の産生する代謝産物がフィルター濾過によって選別された細菌の生育を促進し,新たな細菌種を分離することを目指した.共培養によって得られた分離株の16S rRNA遺伝子配列を解析した結果,分離した3株はいまだヒトからの分離例のないWaltera intestinalisと同定された.またゲノム解析の結果,一部の株はW. intestinalisに近縁な新種候補株であることが示唆された.分離した3株は長く曲線状の特徴的な細胞をもち,フィルターを通過することが困難であることが考えられた.分離株を培養し継時観察した結果,細胞サイズは生育初期では短く細く,培養時間が経つごとに長く太く生育することが確認された.よって,分離株は培養初期の細胞が小さいためフィルターを通過し,後に伸長したことが考えられた.フィルター濾過した分離株は単培養では生育せず共培養のみで生育し,無処理の分離株は共培養よりも単培養での生育が良好であった.フィルター濾過した短い細胞の分離株の生育は共培養の影響を受けて促進するが,無処理である長い細胞の分離株の生育は共培養の影響を受けて抑制することが考えられた.分離した3株は芽胞形成や発芽にかかわる遺伝子を保有しており,芽胞細胞が共培養によって発芽する可能性も示唆された.

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