抄録
本稿の主題は、恋愛における他者との共生がどのように可能であるかを、現代フランスの哲学者であるジャン=ポール・サルトルの思想に基づいて検討することである。現代社会において、結婚を媒介として恋愛と性と生殖を一体のものとして捉えるロマンティック・ラブ・イデオロギーが恋愛をめぐる支配的な言説となっている。これに対して、『存在と無』においてサルトルは、必然的に挫折へと至る恋愛のあり方を、その現象学的他者論の一つとして分析した。先行研究において、彼の恋愛論は愛を過剰に消極的に捉えるものとして批判されてきた一方、あくまでも他者の自由を尊重する彼の分析は、ロマンティック・ラブ・イデオロギーを相対化させる恋愛観として再評価されてもいる。しかし、そのように挫折へ至る愛が、どのようにして恋愛の持続可能性と両立するのかは、定かではない。本研究は、このような観点から『存在と無』における現象学的他者論を再検討し、特に性的欲望に関する議論を参照しながら、そこにおいて愛の持続可能性がどのように捉えられうるのかを考察する。それによって、サルトルの恋愛論の今日的な意義を明らかにすることが、本稿の目的である。