2012 年 30 巻 2 号 p. 73-82
近年,慢性閉塞性肺疾患(COPD)をはじめとする呼吸障害の診断に関心が寄せられている.従来より病院内においては,ポリソムノグラフなどの接触型の測定装置を用いて,呼吸測定が行われてきた.しかしながら,これらの接触型の測定装置では,種々のセンサを直接患者に取り付ける必要があるため,その煩わしさから被験者が測定中に通常どおりの呼吸を行えない場合や,センサが外れて計測が中断する場合があった.そのため,被験者を拘束せずに自然な呼吸を計測することができる非接触型呼吸モニタリング装置の開発が望まれてきた.本論文では,基線長の異なる2台のCCDカメラを用いた2カメラFiber Grating視覚センサを用いることで,呼吸運動による体積変動量を定量的に求め,部位ごとに同定された体積変動量を解析して,相互相関関数を用いて胸部と腹部の呼吸運動の位相差を求める.実験により,COPD患者は健常者に比べ位相のずれが大きいこと,健常者とCOPD患者の呼吸運動の位相のずれには有意差があること,一秒率の小さくなる重症のCOPD患者ほど位相差が大きくなることをそれぞれ示す.これにより,COPDの症状により生ずる特徴的な呼吸パターンを検出し,COPD患者のスクリーニングを行う手法を提案する.