医用画像,特にMRIにおける撮像時間の短縮は,画質とのトレードオフを伴う長年の課題であった.本稿では,この課題に対する強力な解決策として注目される「深層展開」技術を概説する.深層展開は,物理モデルに基づく従来の反復再構成アルゴリズムとデータから特徴を学習する深層学習を融合させ,高い性能と解釈可能性を両立するハイブリッドアプローチである.本稿では,最初にその基本原理を解説し,MRI再構成におけるADMM-NetやISTA-Netといった黎明期のモデルから,U-Netなどの強力な事前知識を統合したMoDL,さらにはTransformerを応用した最新アーキテクチャーまでの進化の系譜を辿る.次に,臨床応用への最大の障壁であった教師データ問題を克服する自己教師あり学習の動向を述べる.さらに,深層展開がなぜ高速な収束を達成するのか,その学習済みパラメーターの振る舞いに関する理論的な解釈を紹介する.最後に,本技術が真に臨床現場で活用されるための根源的な課題として,分布外データへの汎化性能を指摘し,今後の研究の方向性を展望する.
観測データからの画像再構成を行うアプローチの1つとして,観測モデルに基づくデータ忠実項と画像の性質に基づく正則化項からなる目的関数を最小化する方法がある.画像復元のための正則化項としてさまざまな関数が人手で設計されてきたが,近年ではデータを用いて学習した正則化関数を用いる手法が提案されている.本稿では,そのような学習型正則化関数に基づくモデルベース/データ駆動融合型のアプローチとその特徴について概説する.また,計算機シミュレーションによってCT(computed tomography)画像再構成に学習型正則化を応用した際の結果を示す.
X 線タイコグラフィーは,試料にX 線を照射して得られる回折強度パターンから位相回復計算を行い,数十nm の空間分解能で試料像を可視化する技術である.イメージングの品質は位相回復計算に大きく依存するため,さまざまな計測条件に柔軟に対応でき,かつ耐ノイズ性に優れた位相回復手法が求められている.近年,深層学習に基づく位相回復手法が数多く提案されているが,学習データを大量に用意するのが困難であり,計測条件の変化にも対応しにくいという課題がある.これらの課題に対する有力な解決策として,信号処理・機械学習・最適化分野で近年注目を集めている,深層学習と最適化を融合するアプローチが挙げられる.本稿では,この融合アプローチに基づく位相回復手法を紹介し,計測条件の変化に対する柔軟性と高い位相回復性能がどのようにして実現されるのかを解説する.
本稿では,加速MRI画像の再構成を行うために,分割統治法の考え方をもとにするアルゴリズムに対して,拡散モデルを用いた事後確率サンプリングを導入する手法を解説する.MRI画像撮影の際には,必要な信号計測に長い時間を要するため撮影に数十分から一時間程度が必要となる.加速MRIでは,撮像時間短縮のために信号の計測を間引くため,画像再構成が不良設定問題になる.提案法では,拡散モデルを利用し計測信号に基づく事後確率サンプリングを導入する.そして,サンプルした画像のフーリエ変換像に対して再構成精度を成分ごとに推定し,確度の高い周波数列を順番に採用することで,少しずつ拘束を増やしながら画像の再構成を行う.また,サンプルが確率変数であることを利用して簡単な統計量をもとに再構成結果の信頼性を可視化する枠組みも同時に提案する.本提案法について実画像を用いた実験結果を報告する.
本サーベイは,X線CTにおけるスペクトラルシェイピング(Sn/Ag付加フィルター)技術の適応領域と線量・画質への影響を俯瞰したものである.胸部,副鼻腔,骨・関節,interventional radiology(IVR),localizer radiograph,および小児における線量低減と画質への影響を総括した.多くの研究で出力線量および実効線量の大幅な低減(おおむね20~90%)と診断能の維持が示された.一方,一部の組織コントラストの低下,適用可能な管電圧の制約,体格・装置依存性が課題である.Sn/Agの付加により実効エネルギーはおおむね20~30%上昇する.総じて,スペクトラルシェイピングは非造影高コントラストタスクや反復スキャンが想定される状況(小児・IVRなど)で有用な選択肢である.
近年,GPUの性能の向上により,ボクセルデータを対象とした深層学習モデルの構築が可能となりつつある.しかし,一般に胸部CT画像データは1症例あたり200~300×512×512ほどの解像度で記録されており,この規模のデータの処理には膨大なGPUメモリーや学習時間を要する.そこで本研究では,胸部CT画像において,ボクセルデータを効果的に扱うための手法を提案する.1つ目は,冠状軸方向,矢状軸方向,垂直軸方向の3つの軸を基準としてスライスをサンプリングしたデータを用いる手法である.少数派クラスの識別性能をprecision-recall area under the curve(PR-AUC)で評価した結果,学習データと同じドメイン(施設)のデータに対し平均0.9948標準偏差0.0103,異なるドメインのデータに対し平均0.5177,標準偏差0.1320の識別性能を示した.2つ目は,画像から輝度情報とテクスチャー情報を抽出し,これらを組み合わせたデータをモデルへの入力とする手法である.学習データと同じドメインのデータに対し平均0.9071,標準偏差0.1008と高い識別性能を保ったまま,異なるドメインのデータに対しても平均0.8174,標準偏差0.0546の識別性能を達成した.