2025 年 43 巻 4 号 p. 122-125
30年近く前に筆者は,三次元医用画像中の線状(血管,気道など),面状(皮質,関節軟骨など),塊状(腫瘤,リンパ節など)構造を抽出するための多重スケール局所構造解析法を開発した.本手法はかつて広く用いられた解析法の一つであり,深層学習が主流となった現在でも,学習データの確保が難しい場合などにおいては今なお生体医用画像処理の現場で活用されている.本稿では,医学と情報科学の連携研究が本格的に始まりつつあった黎明期に,この解析法がどのような背景や経緯のもとで生まれたのかを,当時の研究環境やアドバイザーとのやり取り,試行錯誤の過程を交えて振り返る.初期には研究の方向性に対して慎重な見方もあったが,継続的な取り組みの中で徐々に手応えが得られるようになり,やがて流れが変わる契機を迎えることとなった.また,この研究は米国の研究室で行われたが,当時の日本の医用画像研究から大きな影響を受けたことについても述べたい.