2025 年 43 巻 5 号 p. 141-147
X 線タイコグラフィーは,試料にX 線を照射して得られる回折強度パターンから位相回復計算を行い,数十nm の空間分解能で試料像を可視化する技術である.イメージングの品質は位相回復計算に大きく依存するため,さまざまな計測条件に柔軟に対応でき,かつ耐ノイズ性に優れた位相回復手法が求められている.近年,深層学習に基づく位相回復手法が数多く提案されているが,学習データを大量に用意するのが困難であり,計測条件の変化にも対応しにくいという課題がある.これらの課題に対する有力な解決策として,信号処理・機械学習・最適化分野で近年注目を集めている,深層学習と最適化を融合するアプローチが挙げられる.本稿では,この融合アプローチに基づく位相回復手法を紹介し,計測条件の変化に対する柔軟性と高い位相回復性能がどのようにして実現されるのかを解説する.