抄録
本論文では,本格運用開始後の会議ではなく,導入企業のアメーバ経営の社内構築プロセスに着目し,アメーバ経営の運用にかかわって必要とされる中間・下級管理者の管理会計能力の形成がいかに図られているのかをケーススタディ研究によって検証した。その結果,コンサルティングを活用した導入であったとしても,アメーバ経営における時間当たり採算計算はコンサルタントによって外部から完成されたパッケージが導入されるものではなく,社内の管理者によって作り上げられるものであること,そしてその構築プロセスにおいては,ルール作りにおける「宿題」の存在と,それも活用したルール作りへの主体的参加が重要であり,それらを通して主に会計と事業活動という実体の関連に関する理解を深めていることが明らかになった。また,導入後,本格運用前の調整段階では,OJTという形で,アメーバ経営の管理会計プロセスの鍵である予定立案能力の向上が図られており,そのなかで,意図的に自動計算しないよう設計された限定的な情報システムによって,部門間のコミュニケーションを促進し,アメーバ経営の求める組織行動の一つである部門間連携を作り出すとともに,予定を単なる予測ではなく意図ある予定とすることを可能にしていることを明らかにした。