抄録
本稿の目的は,計画を実行するだけでなく,自律的に変化に対応することが求められる現場のロワーマネジャーが,相互作用プロセスのなかでどのように管理会計情報を利用するのかを考察することである。日本の製造企業におけるインタビューベースの事例研究にもとづいて,ロワーマネジャー間の相互作用にみられる互酬的な関係に焦点をあて,そのなかでの管理会計情報の利用を検討した。公式の管理会計情報は,しばしばロワーマネジャー間の相互作用の妨げになっていたが,互酬的な関係にもとづく情報交換が相互作用を可能にしていた。互酬的な関係には限定交換と一般交換という2つのタイプがあった。 限定交換では,ローカルな情報交換のメカニズムが共有されることで,公式の管理会計情報だけではわからない他部門の情報ニーズを理解することができた。一般交換では,経営理念が互酬性の期待を高めると同時に,価値観の押しつけに陥りやすいことがわかった。 それを避けるためには,ロワーマネジャーが一般交換におけるお返しを具体的に認識できるような仕組みが重要であった。