抄録
クリプトコックス属は環境に棲息する真菌である, Cryptococcus neoformansとCryptococcus gattiiは経気道的にヒトに感染し, 血流にのって播種し髄膜脳炎を発症させるが, その発症機序については不明な点も多い. クリプトコックスが脳-血管関門を通過する経路は, 血管内皮細胞内の通過, 内皮細胞間隙の通過, または貪食細胞内に貪食されて細胞とともに脳組織に移行する経路が考えられている (トロイアの木馬). C. neoformans感染とC. gattii感染では臨床像に違いがみられる. C. neoformansはHIV感染者での髄膜脳炎発症の報告が多いが, C. gattiiは健常人での髄膜脳炎発症例が多い. C. neoformans髄膜脳炎発症の菌側の病原因子としては, マクロファージへの貪食のされやすさとラッカーゼ活性が報告されている. C. gattiiは4つの遺伝子型があり (VGI~IV), VGIIの遺伝子型は肺での宿主免疫応答を抑制し病変を形成するが, 髄膜脳炎の発症は20%程度と少ない. 一方, VGIは髄膜脳炎の発症率が高いが, 近年宿主側の発症要因として, 抗GM-CSF抗体の保有が報告されている. クリプトコックスによる髄膜脳炎の発症機序の理解には, 菌種および遺伝子型による特徴の理解が重要である.