抄録
今回,高齢で麻痺が重度にもかかわらず歩行能力が向上した症例を経験した。改善の要因について理学療法の経過を通じ後方視的に検討した。症例は,90歳男性,左橋梗塞により右片麻痺を呈し,Br.stageは上肢III,手指II,下肢IIであった。既往歴に高血圧症と心筋梗塞があったが,発症前のADLは自立していた。当院入院時(発症1ヶ月目)のADL状況は,二木による自立度区分においては「ベッド上生活自立」であった。理学療法の頻度は,週5回1日40分間で,8ヶ月に亘り実施した。結果は,平行棒内全介助歩行から四点杖にて病棟内介助歩行まで改善した。二木によれば,高齢や重度麻痺の歩行予後は不良とされる。しかし,本症例においては二木による「ベッド上生活自立」と「基礎的ADL」の能力が予後に反映され,加えて歩行の阻害因子となる合併症が少なかったことが,歩行能力の改善につながったと考えられる。