抄録
自然氷晶核をメンブランフィルターで採集すると、吸湿性成分も普通同時に捕集される。フィルターの吸湿性成分は氷晶核の検出を妨げる作用がある。そこで試料フィルターを蒸留水の表面に浮べることにより、吸湿性成分を除去する手法を開発した。この方法は一種の透析法である。
火山灰を捕集した試料フィルターに透析法を適用し、透析処理した試料と処理しない試料をそれぞれ調製した。各試料について、電子顕微鏡による粒子の形態的な変化の有無を調べた。一方、水過飽和の達成される拡散型低温槽を用いてフィルター上に成長する氷晶を計数することによって、各試料の氷晶核化能力を測定した。
透析処理による粒子の形態的な変化はみとめられなかった。しかし透析処理に用いた蒸留水中には、水溶性成分が検出された。これらのことから火山灰粒子は固体粒子と水溶性成分から成る混合粒子であることを推定した。一方火山灰の氷晶核化能力は、いづれの試料についても、温度の低下及び氷上過飽和度の増加にともなって増加することが明らかになった。また温度及び湿度が-12~-25°C及び氷上過飽和13~35%の実験範囲では、透析処理した火山灰が未処理のものに比べて2~3倍多く氷晶核として働くことがわかった。
自然の大気中では、火山灰が混合粒子であること、さらに氷晶核化能力の温度及び湿度依存性から考えて、火山灰は、基本的には「凝結―凍結」の過程で作用することを推論した。