抄録
1984年冬、対流性線状降雪雲が日本海上で観測された (榊原ら、1987)。この雲の2次元数値実験が猪川ら (1987) により、氷相 (雲氷、雪、あられ) も考慮した非静水圧、非圧縮系モデルを用いて行われ、降雪雲の力学的構造、特にその多細胞構造が調べられた。本論文では、上記研究の続編として、数値モデルを用いて、この降雪雲の雲物理学的側面が調べられる。
異なる雲物理過程のパラメタリゼーションを用いた比較感度実験により、次のことが分かった。
- 対流性降雪雲の降水形成過程においては、氷粒子 (雪、あられ) による過冷却雲水の付着凍結が重要であり、水蒸気の昇化凝結は副次的である。
- 氷化した雲からの降水は、過冷却雲水と氷粒子の混在する混合雲からの降水よりずっと少ない。
- 異なる2つのタイプの氷粒子である雪とあられとでは、降雪雲に対する影響が異なり、降水量、降水開始時刻、コールドドームの冷たさや幅、雲中の過冷却水滴の量に違いが生じる。
- 氷粒子を考慮した“冷たい雲” (雲水、雨水、雲氷、雪、あられ) は、氷粒子を考慮しない“暖かい雲” (雲水、雨水) よりも冷たく幅の広いコールドドームをつくる。
- “冷たい雲”からの降水量は、よく使われている雲水から雨水への自動変換項を用いた“暖かい雲”からの降水量よりも多い。
- 降雪雲の基本的な力学的構造、すなわち、イ)上昇流がシヤーの上流側に傾むいている事、上昇流分枝の系に相対的な流れのU-成分が前方から後方に向かっている事、下降流分枝の系に相対的な流れのU-成分が後方から前方に向かっている事、ロ)海面上のコールドドームと、その上の暖域、ハ)長時間持続した事等は、定性的には、異なる雲物理過程のパラメタリゼーション法にはあまり影響されず、再現される。
- 降雪雲の移動速度や、単一細胞型から多細胞型対流への遷移は、雲物理過程のパラメタリゼーション法に依存している。