Papers in Meteorology and Geophysics
Online ISSN : 1880-6643
Print ISSN : 0031-126X
ISSN-L : 0031-126X
原著論文
日本列島及びその周辺の浅い大きな内陸地震に伴った前震活動の特徴
吉田 明夫
著者情報
ジャーナル フリー

1990 年 41 巻 1 号 p. 15-32

詳細
抄録

 日本列島とその周辺に発生した浅い大地震 (M≥5, 深さ≤30km) の前震活動の特徴を調べた。1961年から1988年までの期間に発生した110個の本震の中、41個、すなわち37%が前震を伴っていた。ここで定義した前震とは、本震の前30日以内に、本震の震央を中心として20′×20′の領域内に発生した地震をいう。前震がみられた地震の割合は、期間を40日とし、また範囲を30′×30′に拡げてもほとんど変わらない。前震時系列の中の最後の前震は、本震発生前1日以内に、その本震の震央のすぐ近くで発生する場合がほとんどである。1981年以後の期間をとると、前震は55%の地震について観測された。これに対して、1961-1970年の期間では前震を伴った本震の割合は27%、また1971-1980年の期間ではそれは37%である。このことは、近年、気象庁の地震検知力が格段に増大したことを示している。前震活動には著しい地域性が存在する。その注目すべき特徴の一つは、伊豆地域と九州中部に発生する地震には前震が伴いやすいことである。特に、伊豆地域では67%の地震に前震がみられた。他の地域では、この割合は26%である。更に、伊豆地域と九州に発生する地震には、しばしば群発的な前震活動が観測される。他の地域では前震を伴ったとしても、通常は1個ないし2~3個の地震が発生するのみである。なお、伊豆地域にみられる群発的な前震活動では、本震発生の2~3時間前に静穏化が生じることが多い。この現象は、大地震の発生直前に破壊の核が生成されて、震源域における応力が緩和することを示しているものと考えられる。この研究で明らかにされた前震活動の地域的な特徴は、1926年から1961年までの期間に日本とその周辺海域に発生した大・中地震の前震を調査したMogi (1963) の結果と調和的である。この事実は、Mogi (1963) も指摘しているように、これらの特徴が一時的なものではなく、その地域地域毎の地殻構造や応力の集中過程を反映した固有の性質であることを示している。前震の時系列は4つのタイプに分類することができる。タイプ1は、1個ないし2~3個の地震が本震の数日から数10日前に発生するものである。このタイプの前震中には本震の発生と直接関係しないものも含まれている可能性がある。タイプ2もタイプ1と同じように1個ないし2~3個の前震がみられる場合であるが、しかし、これらの前震は本震の直前 (通常数分以内) に発生する。このタイプの前震の発生は、本震発生に引き続く破壊の開始を表わしているのかもしれない。タイプ3の典型的な場合は、M4程度の中規模の地震が本震の数時間から1日ほど前に発生してその地震に伴う余震、時には、前震もみられるものである。この中規模の地震に伴う地震活動は、通常、本震発生の2~3時間前には静かになる。タイプ4は群発的な前震活動に対応する。タイプ3とタイプ4の前震活動の発生は、伊豆地域、フォッサ・マグナ地域、九州の中央部にほとんど限られる。これらのタイプの前震活動で、特に伊豆地域においてしばしば見られる本震発生の2~3時間前に生じる静穏化は、大きな地震の直前の予知に有効な前兆現象と考えられる。

著者関連情報
© 1990 気象庁気象研究所
前の記事
feedback
Top