抄録
南部フォッサマグナの破砕帯中に30mの間隔で設置した2台の埋込式体積歪計による観測に基づいて歪ステップの調査を行った。設置直後から約1年間の長期的な歪変化は概してモルタルの冷却化による見かけの膨張と周囲の応力集中の緩和を示した。この間、歪ステップの発生頻度は徐々に減少した。歪ステップの発生と降雨、気圧変化、地下水位、そして地下水温のような環境条件との間に明瞭な関連性はない。2台の体積歪計で見られる歪ステップには相関がなく、その現象の規模は2本の体積歪計の設置間隔よりも小さいことが判る。歪ステップの振幅別頻度分布は地震や岩石のアコースティックエミッションで見られるものと類似しており、破壊過程が関与していることを示唆する。歪ステップの発生数の時間変化は余震系列と同様改良大森公式によって表現できる。室内実験では歪ステップの発生頻度が歪センサー周辺の媒質内の応力レベルに依存することが判った。以上の事から、体積歪計で観測される歪ステップはボアホール周辺の破壊過程で生じていると考えられ、その発生の推移は体積歪計の設置によって生じた初期応力の緩和過程を反映していると考えられる。