抄録
富士山附近に現われる吊し雲の発生機巧は阿部(1941)が風洞実験によって次の様に推定している。山頂附近に温度の不連続面があるとき,第1図で山頂0を越えた気流O-O1-O2は山肩を周った気流 A-A1,A′-A1′とO1附近で衝突し,スパイラル状の上昇流を作った後 A1-A2,A1′-A2′と下降する,これらは更にその外側の気流 B-B1,B′-B1′とB1, B1′で衝突し同様な上昇流を作る、このようにして垂直軸をもった上昇渦が翼形に配列し,吊し雲が生じる。
吊し雲がこのような機巧で発生するとすれば,雲の前面は当然可成りつよいDisturbanceが生じているはずである。われわれが本年6月26日に観測した吊し雲は,写真1に示すようにこの機巧を裏付けていると思われる。又この雲の8ミリのコマどり撮影から変形の様子を解析した。解析の結果吊し雲の大きさは大体2~3km,始めはほぼ定常的に大きさを減少していったが,後には15分位の間隔で間歌的な雲の発生を伴ない乍ら消滅した。