Papers in Meteorology and Geophysics
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乱流剥離並びにその解消と自然風への応用
相馬 清二
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1969 年 20 巻 2 号 p. 111-174

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抄録
メソスケールの地形と気流の問題の中で,乱流剣離の現象がどのような役割を演ずるかを風洞実験,ならびに現地観測資料によつて研究した。風洞気流内で山脈状の地形の模型実験を行なった処によると,風下斜面に剥離現象が観察される。そして風下斜面上では逆流が吹く。山の前面に細い角棒を置いて気流に乱れを与えてやると,この斜離現象は解消し,逆流は消滅する。この際に,乱れの与え方は微妙で,ある程度以上の強い乱れを与えないと,剥離現象は解消しない。与えられる乱れには限界値がある。
以上は風洞実験の結果であるが,自然風にもこれとよく似た現象が見られる。その一つは“おろし”の現象である.従来,強い黙“おろし”の発生機巧に対して,山岳波理論が主に適用されていた。しかしながら,強い“おろし”として有名な“やまじ風”の資料を検討した処によれば,乱流剥離の機構によって説明した方が,むしろ適切でないかと思われた。剥離の現象は,必らずしも,山脈型の地形に限られている訳ではない。適当な傾斜をもってさえおれぽ弧峯でも,この現象は見られる。富士山を例にとり,地表観測資料,映画フィルムによる雲の動きの観察,およびフラッシュ筒による富士山周辺の気流の観測からこの事実を確めた。
この報告の中には,剣離に原因する下層気流の滞留の問題が論じられている,これまでは,汚染空気の上方への拡散を抑えている原因として,気層の安定性,気温の逆転層が主に取り上げられていた。平坦な地形の場合には,これだけ考えればよかったが,山脈,盆地地形では,この他に,剥離に原因する拡散の抑制現象を考えなければならない。剥離の現象は純力学的なものであって,この点,温度逆転層などとは全く発生機構は異なる。
なお,この報告に,風洞実験の結果が多く取り入れられている。これと自然風とを対応する場合には両者間の相似律が問題となるが,そのためには,境界層理論における境界層遷移の概念を導入し,その母数を用いることの必要性をのべている。
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© 気象庁気象研究所
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