抄録
日本における大雨を日雨量階級別の度数を用いて,まず,その地域特性を統計的に明らかにし,次に,地域特性を与える諸要因について動気候学的立場から考察を行なった.
大雨の地域特性は,その大勢は日本列島上およびその周辺に現われる気象じょう説の出現度数の地域分布およびその変化と対応して現われる.大雨の出現度数およびその年変化から大雨の気候区分を行なうことは可能で,西日本については区内観測所資料を用いて地域区分の細分を試みた.その結果は,福井(1933)による気候区分とよく対応する.
日雨量階級別度数分布が指数関数型分布を示すことから,降水密度が大雨度数の良い指標となりうることを理論的にも解析的にも明らかにしたが,その関係は大雨の気候区分によって相違がある.
大雨の地域特性を与える要因には,流入水蒸気量の多寡および地域的に持続する上昇気流の存否が大別してあげられる.
流入水蒸気量の多寡は,大雨度数の緯度分布を説明するし,瀬戸内海や長野県北部のような大雨寡発地帯は流入水蒸気量の山岳地形による遮蔽効果によって説明される.また,紀伊半島を例として,850mb面の風向度数と半島の東西両側の大雨度数の相違との関係を明らかにした.
地域的に持続する上昇気流を与える要因については,気象じょう乱それ自体によるものと,地形による影響とに分けて考察される.地形による影響はさらに力学的作用と,熱学的作用とに細分されるが,特に,海岸地帯や,山岳部縁辺に現われる大雨多発地帯については,地表面の粗度効果による収束帯の形成が取り上げられたし,熱的な作用として,大雨時における1時間雨量強度の日変化が海岸で日出,内陸では午後に極大を持って現われ,この現象は,大雨時にも熱収支の日変化の影響が降雨発生過程に加わっていることを示すものとして指摘される.