抄録
熱帯太平洋のような地球上の限られた領域からサンプルされた空-時系列の西進波と東進波の成分をもつ連続空-時スペクトルを空-時共分散のフーリエ変換として推定する問題について述べる。
従来空-時スペクトルの研究は主として緯度圏に沿って全地球的にサンプルされた空-時系列の時間的には連続ではあるが空間的には不連続な場合についてのみ行あれてきたので,本論文の始めでは従来の研究との関係を明らかにするためいくつかの型の空-時スペクトルについても議論される。
第1章では先づ西進波と東進波の成分をもつ空間的にも時間的にも不連続な空-時スペクトルが空-時平均により定義された共分散のフーリエ変換として与えられる。次にこのような空-時スペクトルの1つの極限として空間的には不連続であるが時間的には連続な空-時スペクトルが導かれ,更にその極限として空間的にも時間的にも連続な空-時スペクトルが導かれる。不連続スペクトルと連続スペクトルの関係も議論される。
空-時系列の統計的研究では空-時スペクトルは母集合平均により定義された空-時共分散のフーリエ変換として与えられる。第2章ではこのように定義された一般化された空-時スペクトルには9つの異った空-時スペクトルの和として表わされることが示される。空-時スペクトルが空間的にも時間的にも絶対連続の場合には空-時スペクトル密度が存在する。
統計的に云うと,第1章で述べた連続空-時スペクトルは連続な空間および時間に対して存在すると仮定される連続係数空-時系列の標本空-時スペクトルを意味する。然し多くの場合,連続係数空-時系列は空間的にも暗間的にも等間隔な不連続係数空-時系列としてサンプルされるので,この場合生じる偽波数-周波数の問題についても簡単に述べる。
次にこのようにサンプルされた空-時スペクトルは或る確率法則で母空-時スペクトル密度に収束することが要求される。ここでは標本空-時スペクトルが母空-時スペクトル密度の一致推定量になるために標本空-時スペクトルを平滑する2つの空-時スペクトル窓関数について述べる。次にこのようにして平滑された空-時スペクトルの大標本的性質が調べられ,x2-分布に基く標本分布の近似が導かれる。
連続係数空-時系列を不連続空-時系列としてサンプルしたときに起る重要な問題の1つは低波数-周波数の波が他の波より大きな値を示すことである-第3章では低波数一周波数の波を消し,綜観規模の波だけを残す2つの型の高波数-周波数通過フィルター-が提案される。或る場合には超高波数-周波数の波は信号としてでなく雑音として現われることがある。このため超低波数-周波数と同様に超高波数-周波数の波を消し,綜観規模波動のみを残す中間波数-周波数通過フィルタ-についても述べる。フィルターされた空-時スペクトルとフィルターされない空-時スペクトルの関係も簡単に議論される。