抄録
エッサ気象衛星の気候学的雲写真上に明確な積算雲分布として現われる熱帯太平洋の平均下層大気とその擾乱の特性を統計的に調べた。
北半球の夏では太平洋の気候学的雲写真は西から南東に伸びる赤道無雲帯により分離された2つの明察な雲帯を示す。月平均の地上気圧と風速場の解析から北側の雲帯は赤道収束帯(ITCZ)に関連しており,一方南側の雲帯は南太平洋の極トラフに関連していることが分る。これらの雲帯は顕著な低気圧性渦度と収束,風向の低い定常性,気圧および風の東西,南北成分における大きな分散により特徴づけられている。赤道無雲帯は西太平洋の赤道トラフと東太平洋の赤道リッジに関連しており,顕著な負渦度と発散,風向の比較的高い定常性,気圧および風の比較的小さい分散により特徴づけられている。
このような平均の気圧場および風速場における局地変動の周波数スペクトル解析によると4-5日週期がITCZの北側と南太平洋の極トラフに卓越していることが分る。西から南東に伸びる赤道無雲帯では西太平洋の4-5日週期,東太平洋の8-10日週期が顕著である。太平洋の緯度圏に沿って取られた空-時系列のスペクトル解析によると,ITCZ内の10°N近くでは波長2,500km週期4-5日をもって西進する偏東風波動がみられるが,この波動は20°Nで最も顕著になる。6日週期で東進する波長5,000kmの波動は30°Nで観測されるが,それは5,000km聞隔で東進する北太平洋亜熱帯高気圧として追跡出来る。一方20°Sでは4-5日週期と10日週期をもって偏東風(基本流)と逆向きに東進する波長5,000kmの波動が観測されるが,これは5,000km間隔で東進する南太平洋亜熱帯高気圧として追跡出来る。10°Sと10°Nの間の赤道地方では6日週期と10日週期をもって西進する波長6,000kmの波動が観測されるが,これらは6,000kmの間隔で西進する赤道高気圧または赤道リッジとして追跡できる。
風の東西および南北成分の相関解析によると,擾乱による東風運動量の南内き輸送がITCZの北側で起り,一方北向き輸送がITCZの南側で起っており,擾乱による東風運動量の収束がITCZに沿って起っていることを示唆している。空-時系列のコースペクトル解析によると10°Nで東風運動量の北向き輸送が5.5日週期をもって東進する波長4,000kmの波動により起り,一方南向きの輸送は5.5日週期をもって西進する波長2,500kmの波動により起っている。後者は偏東風波動によるものである。偏東風波動による東風運動量の南向き輸送は20°Nで最も顕著である。