日本菌学会大会講演要旨集
日本菌学会第53回大会
セッションID: A18
会議情報

エピファイトHeteroepichloë sasaeと宿主ササの組織構造解析
*田中 栄爾古賀 博則
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

Heteroepichloë sasae(子嚢菌類,バッカクキン科)は宿主チマキザサ(Sasa sp. Sect. palmata)の未展開葉の葉鞘を取り巻く黒い角状の子座を形成する.活物寄生菌である本菌の宿主–寄生菌相互関係を明らかにするため,光学顕微鏡と透過電子顕微鏡による組織観察をおこなった.まず,本菌が感染している宿主の展開葉上面に現れる白い組織を観察した結果,この組織は葉の上面の葉脈に並行して成長した菌糸の残渣であると考えられた.また,子座のパラフィン切片を光学顕微鏡で観察すると,子座は未展開葉間のすきまを埋めており,菌糸は宿主組織内には侵入していないことが確認された.次に,本菌の栄養摂取法を解析するため,宿主生長点付近の組織の超薄切片を透過電子顕微鏡で観察した.まず,子座が形成されている未展開葉を観察したところ,葉の上面側の菌糸は葉脈と並行に積層しており,葉の近くほど菌糸が細く,菌糸の内部も充実していることが明らかになった.また,葉の裏面側には菌糸が散在していた.菌糸と宿主の接触面では,植物細胞壁にもクチクラ層にも全く変化は見られなかった.さらに,糖質(1,2-グリコール基)を検出する塩基性ビスマス染色をおこなったところ,葉の上面側の菌糸の周辺に多量の糖質が検出された.一方,子座が形成されていない宿主生長点付近の組織を観察したところ,菌体の存在は認められず,葉上面の糖質の滲出も検出されなかった.以上の結果から,本菌は宿主生長点付近の葉の上面の細胞から,何らかの作用により糖質の滲出を促し,その滲出した糖質を栄養源として葉鞘内で生育するエピファイト(Epiphyte)であると結論づけられた.エピファイト菌糸は葉の成長とともに葉脈に並行に生長し,宿主葉から離れた菌体は肥大して子座に変化すると推測された.また,子座を形成する前に葉が展開した場合は,菌糸の生育が停止すると考えられた.

著者関連情報
© 2009 日本菌学会
前の記事 次の記事
feedback
Top