抄録
ラビリンチュラ菌綱ヤブレツボカビ科に分類されるAurantiochytrium属は,形態形質,化学分類学的形質,分子系統などから総合的に判断されて2007年に設立された属である. 高度不飽和脂肪酸やアスタキサンチンを蓄積することから産業的にも注目されている生物を含むことでも知られている. この属にはA. limacinumとA. mangroveiの2種が記載されているが,後者のタイプ株が失われているため,分類学的な混乱が続いているのが現状である. そこで,A. mangroveiの種のタイプ株に準ずる株の探索を行い,その系統的位置を確定することを通じて,この種および属に関する分類体系を整理することを目的とした. まず,A. mangroveiの基準採集地であるインド・ゴアのマングローブ域の海水などから,176株のヤブレツボカビ類を分離し,すべての株について脂肪酸組成を比較しグループ分けを行った. 次に各グループから選出した30株について,18S rRNA遺伝子の分子系統解析を行ったところ,それらは6つの系統群に分かれて位置した. このうちの1系統群に,「遊走子嚢を形成せずに,栄養細胞が分裂を繰り返して遊走子へと分化する」という本種の特徴を示す株の存在を確認したため,この株をA. mangroveiのタイプ株に準ずる株として結論づけた. さらに,生活史を通した形態形質からA. limacinumと同定される株は,この種のタイプ株と単系統群を形成することを確認し,A. mangroveiと同定される株も,本研究で見いだしたタイプ株に準ずる株と同じ系統群に位置した. また,これらは全体としてAurantiochytrium属の系統群を形成した. 以上の結果は,この属および構成する2種の分類基準が妥当であり,これらは系統関係と矛盾しない自然分類群であることを示唆した.