抄録
Alternaria alternataは,自然界に広く分布する本来腐生的な糸状菌である.しかしながら本菌には,それぞれ異なる作物,あるいは作物品種にのみ病気を引き起こす7つの病原性系統が存在し,病原型(pathotype)と呼ばれている(1-4).これら病原型の病原性は,それぞれが生産する宿主植物にのみ毒性を示す菌の第2次代謝産物(宿主特異的毒素)によって決定されている(1-4).したがって,A. alternataの病原型は,腐生的菌株がそれぞれ固有の毒素生産能力を獲得することによって病原菌化したものと考えられ,植物病害発生の根本現象である“腐生菌からの病原菌誕生”,“寄生性の種内分化”を研究するための好適なモデルである.
筆者らの研究グループでは,A. alternataにおける植物寄生性の進化と種内分化の分子機構の解明を目的として,毒素生合成遺伝子群の同定を進めている.これまでに,7つの病原型のうちナシ黒斑病菌(AK毒素生産菌)(5),イチゴ黒斑病菌(AF毒素生産菌)(6),タンゼリンbrown spot菌(ACT毒素生産菌)(7),リンゴ斑点落葉病菌(AM毒素生産菌)(8)およびトマトアルターナリア茎枯病菌(AAL毒素生産菌)(9)から毒素生合成遺伝子を単離し,それぞれの毒素生合成遺伝子群がクラスターとして存在することを明らかにした.また,各病原菌の毒素生合成遺伝子が1.8 Mb以下の小型染色体にコードされていることを見出すとともに,イチゴ黒斑病菌,リンゴ斑点落葉病菌,トマトアルターナリア茎枯病菌から,毒素生合成遺伝子をコードする小型染色体の欠落株を分離した(6,8,9).これら染色体欠落株は毒素生産性,さらに病原性を完全に失うが,栄養成長,胞子形成,胞子発芽などは正常であり,これら染色体が生存・成育には必要でない余分な染色体であることが明らかとなった.