日本菌学会大会講演要旨集
日本菌学会第53回大会
セッションID: S7
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根株腐朽菌ナラタケ属菌・マツノネクチタケ属菌の種と系統および病原性について
*太田 祐子
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抄録

木材腐朽菌は、樹木の辺材および心材を腐朽させる菌である。腐朽菌といっても、生きた木に侵入し枯死させる「病原性」の強い菌から、倒木などの死んだ材のみを栄養源とする腐生性の菌まで、様々な性質をもつ菌を含む。木材腐朽菌のなかでも、根や幹の地際部より侵入し根株を腐朽させる根株腐朽病菌は、しばしば「病原性」の強い菌として問題視されている。特に、ナラタケ属菌、マツノネクチタケ属菌は、重要な林業樹種に対して根株腐朽病害をひきおこす原因菌として、これまで様々な角度から研究がすすめられてきた。マツノネクチタケ(Heterobasidion annosum s.s. ) については、現在、ゲノムプロジェクトが進行中であり(2009年5月に公開予定)、今後分子生物学的な側面からの根株腐朽病の感染機構解明や防除方法の確立が期待されている。今回は、これら代表的な根株腐朽菌であるナラタケ属菌、マツノネクチタケ属菌について紹介する。 1.種・系統について ナラタケ属菌とマツノネクチタケ属菌は、分布域がひろく、病原性や形態に幅のある1種の菌であると考えられていたが、複数の生物学的種を含むコンプレックスであることが明らかされた。現在は、生物学的種ごとに異なる形態的特徴、宿主範囲、分布域、病原性をもつことが明らかになり、これらの情報と分子系統学的手法によって「種」が整理されつつある。しかしながら、離れた地域に分布する異なる種間でも交配試験を行うと比較的高い率で交配が成立したり、数遺伝子座を用いた系統解析でも種間の関係が明瞭にしめされなかったり、種問題は依然として解決していない。属内の種間の関係および系統については、広葉樹と針葉樹の両方を宿主とするナラタケ属菌は、おもに地理的分布が反映されているが、主として針葉樹を宿主とするマツノネクチタケ属菌では、マツ属、トウヒ属、モミ属の分布が、種分化に大きな影響を与えたと考えられる。分布に関しては、局地的には、人為(材や苗木の異動)によって、これまで分布しなかった地域に菌が侵入定着した例がいくつか明らかにされている。

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© 2009 日本菌学会
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