抄録
アカマツ(Pinus densiflora)の花粉を釣り餌として用いた釣菌法により, 日本各地で採取した104土壌試料からのツボカビ類の分離を試みた. 約3g(湿重量)の土壌試料と滅菌水30mlを混合し, 約12時間静置後にアカマツ花粉を水面に撒布して10および20℃で培養した. 3, 7および14日後に水面から少量の花粉を取り, 抗生物質を添加したPeptonized milk - Tryptone - Glucose (PmTG)寒天平板と4倍希釈Yeast extract - Peptone - Soluble starch (1/4YpSs)寒天平板上に塗布した. 3から7日間の培養の後, 平板上の花粉周辺に形成されたツボカビ類コロニーを新たなPmTGまたは1/4YpSs寒天平板に植え継ぐことによって計121株の純粋培養菌株を確立した. 培養株は光学顕微鏡を用いた形態観察とリボソームDNA遺伝子(18S rDNA, 5.8S rDNAを含むITS領域, 28S rDNAのD1/D2領域)塩基配列の解析によって同定を行った. 従来の広義のツボカビ門は, 近年になって3門(狭義のツボカビ門, コウマクノウキン門, ネオカリマスチクス門)に分割されている. これらのうち, 狭義のツボカビ門のツボカビ綱6目に所属するツボカビ類がマツ花粉から分離された. 最も高頻度で分離されたのはフタナシツボカビ目Rhizophydialesの菌で, 分離株の3/4以上を占めた. 次いでツボカビ目Chytridialesに所属するツボカビ類が多く分離された. 一方, スピゼロミケス目Spizellomycetalesとロブロミケス目Lobulomycetalesの分離株数はそれぞれ6株および4株と少なく, またリゾフリクチス目Rhizophlyctidalesとエダツボカビ目Cladochytrialesの分離株は各1株のみであった. 以上の結果から, 国内土壌からはマツ花粉釣菌法によって主にフタナシツボカビ目のツボカビ類が分離されることが明らかとなった. これは同目の種が国内の土壌中に普遍的に生息している可能性を示すが, 寒天培地上での生育が良好であることにも起因するものと考えられる.