従来, 日本産ツツジ亜属植物上に発生するさび菌はChrysomyxa rhododendri (O, I-トウヒ属植物; II, III-ツツジ属植物に寄生) と同定されてきた. しかし2005年, Craneらは関東以南のヤマツツジRhododendron kaempferiと九州地域のミヤマキリシマRhododendron kiusianum上に発生したさび菌の夏胞子世代の標本を調査し, これらの夏胞子の形態がCh. rhododendriのものとは異なることを明らかにした. さらに, これらと同一の形態を有する茨城県つくば市筑波山御幸ヶ原付近のヤマツツジ上に生じた夏胞子世代の発生を継続観察したところ, 冬胞子世代の発生が認められなかった. このことから, この夏胞子世代のみを有するさび菌はCh. rhododendriとは別種であるとし, 筑波山で採集した標本を基準標本として, 不完全さび菌類のCaeoma属の新種Caeoma tsukubaenseとして命名記載した.
演者らは, 茨城県つくば市筑波山神社付近において, 庭木として栽培されていたヤマツツジ園芸品種R. kaempferi cv. 上にさび菌の夏胞子世代及び冬胞子世代の発生を確認した. 夏胞子世代は春葉または夏葉上に年間を通して発生が認められ, 形態的特徴からCa. tsukubaenseと同定された. 一方, 冬胞子世代は4月下旬に, 越冬した夏葉上にのみ発生が確認された. 冬胞子堆は赤橙色で葉の裏面表皮下に形成し, 成熟すると裂開した. 冬胞子は立方体‐不定形で密生し, 柄を持たず4-6個が鎖生し, 休眠せずに直ちに外生担子器を形成した. これらの形態観察の結果から, この冬胞子世代はChrysomyxa属菌の形態的特徴を有していることが明らかとなった. この冬胞子世代と夏胞子世代のみが報告されているCa. tsukubaenseが同一病斑上に混在していたことから, これらは同一種であることが示唆され, Ca. tsukubaenseはChrysomyxa属に転属するのが妥当であると考えられた.