抄録
Arthrobotryum Ces. (1854) の基準種A. stilboideum Ces. (1854) は黒褐色シンネマ, アネライド, 淡褐色多細胞分生子, 粘性分生子塊などにより特徴づけられ (Ellis 1971), 本邦においても腐朽木上で普通に見出される. 本属には50種程度が現在までに報告されているが(Index Fungorum, CABI Bioscience Databases), 分類学的ならびに系統学的再検討はほとんどなされていない. 本研究では, A. stilboideumとA. hyalospora G. Okada & Tubaki (1984) について, 形態ならびにrDNA/ITS塩基配列に基づいた分類学的再検討を試みた.
Okada and Tubaki (1984) は, 沖縄の腐朽木より採集分離したアナモルフ菌を, 分生子の形態(色と形)に関する相違点を認めながらも, シンネマの性状と分生子形成様式の類似性からArthrobotryum属に含めるべきと判断し, A. hyalosporaとして報告した. そこで, 本種とA. stilboideumについて, 主として本邦より採集分離した標本と分離株を用いて, 部分的ではあるが, rDNAならびにITSの塩基配列を比較検討した. その結果, A. stilboideumは, 18S rDNAとITSの結果から, Herpotrichiellaceae (Chaetothyriales, Eurotiomycetes; NCBI Taxonomy) に帰属することが判明した. 一方, A. hyalosporaは, 28S rDNAの結果から, Chaetosphaeria属 (Sordariomycetes) との近縁性が強く示唆された. 18S rDNAなどの結果からは, A. hyalosporaとChaetosphaeria属との関係は明確には言及できないが, 少なくともSordariomycetesとの近縁性は示唆された. 従って, 分生子の形態が大きく異なること, またrDNA/ITSに基づく高次分類レベルでの違いが明らかになったことから, 両種は別属に分けるべきと思われる. A. hyalosporaに対して, 新属を設立するのが妥当であると結論する.