抄録
フジウスタケ(Turbinellus fujisanensis ≡ Gomphus fujisanensis ≡ Neurophillum fujisanensis ≡ Cantharellus fujisanensis)は1941年に今井三子が山梨県産の標本に基づき新種として記載した分類群である.本分類群はラッパ型で肌色の子実体を形成することを特徴とする.今井はこの分類群がウスタケ (T. floccosus ≡ G. floccosus) に類似するが,傘肉が厚く柄が赤色を帯びないとしてフジウスタケ (富士臼茸) と命名した.また,オニウスタケ (T. kauffmanii) は1947年にA. H. Smith がアメリカ産の標本に基づきCantharellus kauffmaniiとして記載した分類群で,形態形質はフジウスタケに類似しておりアメリカ西側の山岳地帯に発生する.現在日本には,フジウスタケの記載とは一致するが形質の異なる複数の菌群が存在し,これらは北海道から九州にかけて各地のモミ属・ツガ属などの針葉樹林を中心に広く分布する.これらはまとめてフジウスタケと呼ばれているが,より大きな子実体を作るものをオニウスタケと呼んで区別する場合もある.本研究では,これらフジウスタケと呼ばれる菌群について,詳細な表現形質の解析とともに,核とミトコンドリアのゲノム上に存在するそれぞれ複数の遺伝子領域,LSU,ITS,ATP6,MtSSUを用いて最尤法による分子系統解析を行い,これらの菌群の異同および表現形質との関連を検討した.その結果,日本に産する ‘フジウスタケ’ と呼ばれる菌群は,3つ以上の分類群に分かれることが強く示唆された.さらに,Genbankに登録されているアメリカのT. kauffmanii のITS以外の3領域の塩基配列を比較したところ,完全に一致する分類群は認められなかった.以上のことから,今井が記載したフジウスタケの再定義を行うとともに,他の分類群については新たな名前を与える必要があると結論された.