抄録
Lentithecium 属は広義Massarina 属から近年になって分割された属であり, 子のう菌門, プレオスポラ目, レンティセシウム科に属する. 本属は4 種で構成され, 草本・木本植物の腐生菌として知られている. これら4 種は主にレンズ形の偽子のう殻および無色・多細胞の子のう胞子を共通の特徴とする単系統群と考えられていたが, 分子系統解析によりKatumotoa 属, Keissleriella 属, Ophiosphaerella 属の種と共に, レンティセシウム科内において属レベルで異なる複数の系統群からなることが示唆されている. そのため, 狭義Lentithecium 属の属定義を明確にし, 基準種から逸脱する系統群に関しては分類学的再編を試みる必要がある.
本研究では広義Massarina 属菌の分類学的再検討を行う過程でレンティセシウム科に所属することが判明したM. clionina およびM. magniarundinacea を用い, Lentithecium 属とその関連菌の系統関係・形態的特徴を解明するためにリボソームDNA の18S および28S 領域に基づく分子系統解析と形態比較を行った. その結果, 狭義Lentithecium 属は本属の基準種 L. fluviatile とM. clionina で構成されることが示唆された. これら2 種は厚い殻壁細胞からなる球形の偽子のう殻, 短い柄を伴った子のう, 無色で1–3隔壁の子のう胞子を共通形態とすることから, 以上の形態的特徴に基づき狭義Lentithecium 属を再定義できると考えられた. Lentithecium arundinaceum はM. magniarundinacea とよく支持された単系統群を形成し, 亜球形~レンズ形の偽子のう殻, 細紡錘形の子のう胞子, および草本植物寄生性を共通の特徴とした. 本系統群は形態的にも分子系統的にも狭義Lentithecium 属とは異なることから, 新属とすべきであると考えられた. 本研究では形態比較を行わなかったがLentithecium 属の他の2 種(L. lineare とL. aquaticum) も狭義Lentithecium 属に所属しないことは分子系統解析の結果から明らかであり, 今後は他属への所属組み換えが必要であると考えられる.