抄録
生体膜における脂質分子の特徴的な運動の一つが二重膜の上下層を行き来する垂直拡散(flip-flop)運動であり,脂質分子により非常に大きく拡散係数が異なる.こうした脂質分子の運動は膜融合や小胞輸送などの膜の変形や,膜上でのタンパク質の活性などに関与している.本研究では,粗視化モデルをもちいてコレステロール(CHOL),ジアシルグリセロール(PODAG),セラミド(SCER)の3種類の脂質分子のflip-flop 運動について分子動力学計算を用いて調べた.その結果,flip-flop 運動では脂質分子と水の相互作用が本質的に重要であり,同一のリン脂質二重膜中では膜表面における滞在時間の長さに反比例してCHOL >> PODAG > SCER の順にflip-flop 率が高いことが分かった.また,膜の種類によっても異なり,膜の不飽和度が高く流動性が高い膜中ほど高いflip-flop 率を示すことが分かった.