2013 年 15 巻 3 号 p. 186-196
高密剛体球系の融点近傍で生じる「トランジェントな結晶」を定量化するため,広範な応用が可能な2つの新しい方法論を開発した.まず,(i)配向秩序を定量化する最近接結合秩序パラメーターを高次近接シェル(第2近接以上)へと拡張した.また,(ii)シアストレスのポテンシャルパートと関係のある配向因子の相関関数を高次近接シェル内の粒子を衝突候補とみなし時間で粗視化することにより,従来の粒子衝突ベースの計算に比べ,約2桁高速な計算を実現した.これらのブレークスルーにより,粘性係数と直接関係するシアストレス自己相関関数の遅い緩和,すなわち(30年来の難問である)いわゆる「モラセステール問題」の系統的な研究が可能となった.特に(ii)の方法では,従来は膨大な計算量により不可能とされた4体2時間配向因子自己相関関数(すなわち,8点相関)の計算も可能となり,その距離依存性の関数系を統計精度よく求めることに成功した.本研究は,高密液体で生成する「トランジェントな結晶」の時空構造解析のみならず,一般の液体-ガラス系やジャミング転移を定量づける有益な解析ツール(方法論)の一つとしての今後の応用や発展が期待される.