2016 年 18 巻 3 号 p. 159-167
タンパク質の機能発現に関係する構造遷移は, 長時間の確率過程において観測される「レアイベント」であり, それらを分子動力学シミュレーションにより再現することは, 生体機能を解析する上で重要である. しかしながら, 機能発現の時間スケールと分子動力学シミュレーションが到達可能な時間スケールとの間にはギャップが存在するため, レアイベントを再現することは困難である. 本稿では, レアイベントを再現するため, 著者らが開発した遷移経路探索法である「カスケード型超並列シミュレーション」について解説する. 本手法は, 初期構造の異なる短時間分子動力学シミュレーションを超並列に実行することで, 効率的な遷移経路探索を実現する. 本手法の解説に加えて, タンパク質フォールディングやタンパク質大規模構造変化に本手法を適用したアプリケーションの計算結果についても概説する.