2017 年 19 巻 1 号 p. 8-13
ナノ細孔内を満たす水はバルクでは見られない固体構造を有し,それらの固体が関与する相変化は一次相転移と連続的変化の二つのモードをとる場合がある.通常,二種類の相変化の差異が消える条件が臨界点であるが,もしそうであれば,ナノ細孔内物質にはバルク系では確認されていない固液臨界点が存在することになる.分子シミュレーションにより相転移および臨界点の存在を厳密に証明することは困難であるが,ナノチューブ内部の水のシミュレーションと有限サイズ効果の解析から,固液臨界点の存在を強く支持する結果が得られる.シミュレーションで得られるすべての固液共存線は臨界点で終わり,臨界点から超臨界領域にかけて,熱容量または圧縮率の極大の軌跡(Widom線)が伸びる.固液共存線,臨界点,そしてWidom線を含む温度-圧力面の相図と代表的な状態点における水の構造・ダイナミクスについて概説する.