2018 年 20 巻 4 号 p. 260-263
本研究では,量子・古典複合型の分子シミュレーション手法であるQM/MM 法と,正確かつ効率的な自由エネルギー計算手法として知られる溶液論(エネルギー表示の理論; ER 法)を結合した,QM/MM-ER 法を採用し,自由エネルギー解析を行った.本稿では,2つの研究成果について概説する.1つ目は,ベンゼン分子の水和において,電子密度揺らぎの自由エネルギーへの寄与を,π電子とσ電子に分割した.これにより,π電子がより大きく分極し,σ電子の3 倍近い安定化の寄与をすることが定量的に示された.2つ目として, 本方法を生体系に適用し,光化学系II(Photosystem II; PSII)における酸素発生反応の酸化自由エネルギーの解析を行った.その結果,PSII タンパク質の存在が,反応中心であるMn クラスター(酸素発生複合体; OEC)の酸化自由エネルギーを著しく低下させることが明らかとなり,PSII タンパク質が生体内の電子移動を促進させていることが示唆された.