2020 年 22 巻 1 号 p. 81-86
本稿では,分子性液体の積分方程式理論に基づいて,3 次元空間で分子拡散を記述する方法論の開発研究について紹介する.相互作用点モデル(RISM) 理論に基づくダイナミクス理論は,1990 年ごろから精力的に開発が行われ,現在では溶液ダイナミクスを解析するための有効な理論的手法の一つとなっている.しかし,これまでの理論では,溶液構造の時間発展を原子間の距離r の関数として記述するため,形状が複雑な分子からなる溶液系への適用は困難であった.筆者は3 次元空間で溶媒和構造を記述する3D-RISM 理論に立脚した新規理論の定式化を行い,リチウムイオン二次電池の有機電解質溶液等,複雑な溶液系の拡散過程や多原子分子系での拡散律速反応の記述を可能とした.