2021 年 23 巻 1 号 p. 49-54
本稿では,著者が博士後期課程在学中に執筆した博士論文の第3 章「RISM 法により計算された溶媒和自由エネルギーに対する分子配向相関の影響」について紹介する.溶液内で起こる様々な生体内過程を議論する際に最も重要な熱力学量の一つが溶媒和自由エネルギーである.液体の統計力学に基づいた理論である1D RISM 法及びその三次元拡張版である3D-RISM 法は種々の近似の下で溶媒和自由エネルギーの解析的な計算式を与えるため,分子シミュレーションと比較して低コストで溶媒和自由エネルギーを計算できるが,その絶対値の定量性に問題があることが知られている.この計算精度に関する問題の一因としてこれらの手法の定式化の際に適用されている,相互作用点モデルの導入による分子配向の平均化の近似が挙げられる.本研究では,この近似に対する補正法として提案されているrepulsive bridge correction (RBC)及び部分波展開(PW) 法を用いて分子配向の取り込みが1D-RISM 及び3D-RISM 法の計算精度に及ぼす影響を系統的に評価した.