2023 年 25 巻 4 号 p. 284-293
ゲルの弾性は,ゴム弾性と同じくエントロピー弾性によって説明できると長く信じられてきた. しかし,近年実施された系統的な実験により,ゲルにはエントロピー弾性と同じオーダーの負の値を持つエネルギー弾性—負のエネルギー弾性—が存在していることが明らかになった. 負のエネルギー弾性のミクロな起源を探るため,我々は,ゲル中のポリマーネットワークを構成する架橋点間のポリマー鎖に注目し,格子ポリマーモデル(自己回避ウォーク)を用いた解析を行った. 立方格子上のポリマー鎖について,自己回避ウォークのコンフォメーションを 20 ステップまで厳密に数え上げた結果,負のエネルギー弾性はポリマー鎖と溶媒の引力相互作用に由来することが明らかになった. この結果は,負のエネルギー弾性が一部のゲルに限られた性質ではなく,私たちの生活を取り巻くゲルの普遍的な性質であることを示している. 本稿では,数理モデルの定義や途中の計算過程を紙面が許す限り省略せず示し,厳密な数え上げの結果とそこから計算される種々の物理量から負のエネルギー弾性の出現を解析的に示す.