アンサンブル
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特集「高分子ゲル」
高分子ゲルの弾性率と浸透圧の常識を問い直す
作道 直幸
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2023 年 25 巻 4 号 p. 279-283

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抄録

高分子ゲルは溶媒を保持した高分子網目であり,通常,網目は不均一な構造を持つ.そのため,ミクロな網目構造とマクロな力学特性の関係の理解は不十分であった.しかし,均一で制御可能な網目構造を持つゲルが開発され,ゲルの基礎物理の理解が進んでいる.本稿では,そのようなゲルを用いた最新の実験結果に基づいて,ゲルの弾性率と浸透圧に関する常識に対する以下の問題提起を行う.(i) ゲルの弾性率は,エントロピー弾性を仮定したゴム弾性理論のモデルを借用して説明される.しかし,ゲルには溶媒と高分子の相互作用による「負のエネルギー弾性」が影響するために,従来のゴム弾性理論と異なる.(ii) ゲルの浸透圧は Flory-Huggins 理論を用いて記述されるが,高分子体積分率が低いゲルへの適用は本来不適切である.実際には,準希薄溶液のスケーリング則が実験結果をよく説明する.(iii) ゲルの平衡膨潤状態は調整状態の濃度や弾性率に依存して決まり,平衡膨潤状態における状態量(温度,濃度など)が同一でも,ゲルはマクロに同じ状態にはならない.このことから,de Gennes c*定理は成り立たないことがわかる.

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© 2023 分子シミュレーション学会
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