抄録
微生物の有する物質生産能力を引き出し,有用な生理活性物質を発見する研究の一環として,培養条件を変化させることにより,新たに誘導される物質に着目し,新物質のスクリーニングを行った.すなわち,地上植物とは異なる環境下で生育しているマングローブ林の環境適応力に着目し,マングローブ植物から分離した内生菌について,培地に海水と同程度の濃度になるように食塩を添加することで,塩ストレスにより二次代謝産物生産パターンが変化する菌株を選別し,それに連動し,誘導される物質の探索を行った.マングローブ植物より分離した糸状菌Eurotium rubrum IM-26株を選別し,食塩添加培養抽出物より化合物1-5を単離し,それらの化学構造を解析した.その結果,化合物1は芳香族ラクトンを有する既知のユーロチノンであり,3,4,5もその類縁体であった.化合物2はアントラセノン系の既知のトロサチリソンと同定した.本菌は食塩を添加した培養条件に適応し,それに連動し,二次代謝産物生産性に変化を生じ,抗菌活性を有する1,2,5の生産を誘導した.