論文ID: 75-2-2
「ナレズシ」は地域の魚介類を米飯と共に漬け込んだ伝統的発酵食品であり,江戸前寿司のルーツとされる.現在,なれずしは日本各地に分布し,それぞれの地域に根付いた郷土料理となっている.先人たちは各地域の気候風土に応じて長い年月をかけて安全かつ安定的な発酵が保証できるナレズシの生産技術を確立し,各地域の伝統文化や食文化と関わり合いながら現在の形へと進化してきたと考えられる.本稿では,和歌山県日高地方に伝わる「紀州鯖なれずし」と岐阜県岐阜市長良川の鵜匠家に代々伝わる「鮎鮨」に焦点を絞り,両ナレズシの発酵科学を中心に解説する.