1973 年 62 巻 7 号 p. 735-746
結合織病変や組織の線維化を防止することを目的として,線維芽細胞を抑制する試みは臨床分野においても薬物その他を用いて早くから成されている.今回,線維芽細胞を培養中,線維素溶解酵素(plasmin)の作用で,線維芽細胞の増殖が抑制され,しかも細胞が破壊されることを観察した.鶏胚各臓器由来の線維芽細胞は, plasmin処理(1.0 casein unit/3m1)で, 30分~1時間後に細胞質に著明な顆粒の出現をみる.つづいて空胞化,萎縮をきたし, 12時間後にはほとんど崩壊する. plasminが直接細胞に障害を及ぼすことは再培養が不可能なことでも確認された.出現してくる顆粒は, acid-pho-sphatase反応陽性で, acridine orange染色にもよく染まり,さらに電顕所見を総合するとlysosomeと考えられた.恐らくlysosomeに何らかの作用を及ぼすことによつて細胞に障害をひきおこしたと推測される.今回の実験は,血漿包埋法による培養でclot内に生じたplasmin活性が線維芽細胞を変性,崩壊せしめた現象に注目し,つぎに単層培養を試みて明確なる変性過程をとらえた.