日本内科学会雑誌
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水様下痢,低カリウム血症,胃酸分泌低下を呈したvasoactive intestinal polypeptide産生膵腫瘍の1例
河中 正裕大岩 信之豊岡 建治松岡 徹森 俊雄垣下 栄三永井 清保山口 建阿部 薫亀谷 徹
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1978 年 67 巻 12 号 p. 1546-1554

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抄録

WDHA(watery diarrhea, hypokalemia, achorhydria)症候群は比較的まれな疾患で,本邦ではいまだ数例の報告をみるにすぎず,その病因を明らかにしえた症例はない.著者らは最近vasoactive intestinal polypeptide (VIP)産生腫瘍に起因することを確認した典型的なWDHA症候群の1例を経験した.症例は27才,女で, 1日10行以上に及ぶ水様性下痢と脱水症のため入院した.血中K値は低値で,一方糞便中へのK排泄量は著明な増加を認め,さらにhistamineによる胃酸分泌の低下を認めた.腹腔動脈造影により膵に孤立性腫瘍を見出し,これを摘除したところ,術後諸症状の改善消失をみた. VIP値は血中・腫瘍組織中とも対照に比していずれも高値であつたが,術後血中VIP値は正常域に復した.抗VIP抗体を用いた蛍光抗体法によつても腫瘍細胞内にVIPが存在することを確認した.さらに腫瘍細胞内にcalcitonin, somatostatin, gastrinの産生をも認めた.電顕による病理組織学的検索にて腫瘍細胞は膵ラ島のD1cellに最も類似しているものと考えられた.本例はVIP産生腫瘍に起因するWDHA症候群であり,かかる事実を明らかにしえた本邦における最初の例である.

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