低レニン本態性高血圧症の病因としては,循環血漿量の増大,ある種のミネラロコルチコイド過剰分泌,腎内血行動態の変化などが推測されているがいずれも確立されたものではない.一方,本態性高血圧症のナトリウム代謝に関しては古くから数多くの研究があるが,腎尿細管においてナトリウムの再吸収と交換に尿中に排泄されるカリウムについては詳細な検討は少ない.そこでわれわれは本態性高血圧症を低レニン,正常レニン,高レニンの3群に分類し,各群のレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系,カリウム量,循環血漿量を比較検討し,低レニン本態性高血圧症の病因を推測した.対象とした本態性高血圧症は75例で,そのうち低レニン群は40%であつた.低レニン群では,低ナトリウム食や立位に対する血漿レニン活性の増加反応は低下していた.低レニン群では血漿アルドステロン濃度,血清カリウムは正常であつたが,全身K量は低下していた.しかしミネラロコルチコイドの関与を推測する目的で行なつたカリウム・クリアランスは上昇を認めなかつた.循環血漿量は正常レニン群に比して有意(p<0.05)に増加を示した.以上の成績より,低レニン本態性高血圧症の病因としては体液量の増大を認めるが,その原因としてはミネラロコルチコイドの関与は考えにくいと思われた.しかし本症では血清カリウムは低下はないが,全身カリウム量の低下を認めるので,慢性のカリウム喪失状態の存在が推測された.したがつて低レニン本態性高血圧症の原因としては,ミネラロコルチコイド以外の体液量増大とカリウム喪失を来たす機序の存在が推測された.
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