抄録
慢性骨髄性白血病(以下CMLと略す)の経過中に腎障害が問題になる事は少ない.慢性期のCMLに左腎の著明な腫大と機能障害を伴い,抗白血病療法により改善をみた症例を経験したので報告する.症例は20才男子大学生で,腹部に臍下5cmに及ぶ脾腫を触知し,血液学的検査,染色体分析等により, Ph1陽性CMLと診断された.排泄性腎孟造影(以下IPと略す)にて左腎の造影不良,腎実質の腫大,外下方への偏位等の所見が得られ,入院4年前のIPには所見がない事より, CMLに基づく変化と考えられた.また,腎動脈造影では枯枝状の動脈相がみられ,腎実質のび漫性の腫大を推測させた.腎機能では,標準クリアランス法でGFR, RPFとも正常,レノグラムで左腎は二相から三相にわたり平坦なパターンを示した.さらに比較的小量の尿蛋白が検出され,分析の結果尿細管性蛋白と考えられた.総腎機能は保たれているため,ブスルファンによる抗白血病療法を行ない末梢白血球数を減じた後,再度腎について精査を加えた. IPでは左腎の縮小,位置の正常化を認め,レノグラムでは正常パターンを示した.尿蛋白の分析では,尿細管性蛋白の消失を確認した.上記の所見・経過を総括すると,本例の腎腫大と機能異常は腎間質への顆粒球系細胞の浸潤に基づくものと推測された.