1981 年 70 巻 9 号 p. 1273-1276
症例は67才の男性で,胆管癌による閉塞性黄疸のため開腹術をおこなつたが,広範囲の腫瘍浸潤を認め,切除不能であつた.臨床経過は11ヵ月であつたが,末期に急性左心不全を合併して死亡した.剖検を行なつたところ,癌組織は粘液産生に富む腺癌で占められていた.両心房内に僧帽弁と三尖弁に付着した6×3cm, 7×3cm大の疣贅を認め,組織学的に非細菌性血栓性心内膜炎であることが確認された.左心室と左腎に小硬塞巣を認めたが,これらは非細菌性血栓性心内膜炎より発生した塞栓によるものと推定された.過去に報告された非細菌性血栓性心内膜炎の大きさは2cm以下であり,本症例のように大きな血栓が房室口に嵌頓して死亡したと考えられる例は見られない.近年,非細菌性血栓性心内膜炎の発生機序とdisseminated intravascular coagulationとの関連性が注目されているが,悪性腫瘍をはじめとする慢性消耗性疾患において, hypercoagulable stateの存在が疑われる場合には,心エコーによる心腔内血栓の検索が望まれる.